東京高等裁判所 平成6年(行ケ)261号 判決 1996年3月19日
アメリカ合衆国
12305 ニューヨーク州 スケネクタデイ リバーロード 1番
原告
ゼネラル・エレクトリック・カンパニー
同代表者
ヘンリイ・アイ・ステックラ
同訴訟代理人弁理士
生沼徳二
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 清川佑二
同指定代理人
下道晶久
同
及川泰嘉
同
関口博
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成3年審判第18490号事件について平成6年6月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文第1、2項と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和61年9月3日、名称を「回転電気機械用の液体冷却型静止励磁システム」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、アメリカ合衆国における1985年9月16日付け特許出願に基づく優先権を主張して、特許法38条ただし書(昭和62年法律第27号による改正前のもの)の規定による特許出願(特願昭61-206091号)をしたが、平成3年5月24日拒絶査定を受けたので、同年9月30日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第18490号事件として審理した結果、平成6年6月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として90日附加)との審決をし、その謄本は、平成6年7月25日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
(1) 特許請求の範囲第(1)項に記載された発明(以下「本願第1の発明」という。)
回転磁界を発生するための回転可能な界磁巻線、固定子鉄心スロットの中に一組の多相の主電機子巻線を配置した固定子鉄心、および少なくとも上記一組の主電機子巻線を冷却するために第1の冷却流体を供給する第1の冷却手段を含む回転電気機械に対する静止励磁システムであって、
コア、一組の1次巻線、および一組の2次巻線を有し、上記一組の1次巻線が上記一組の主電機子巻線の内の予め定められた主電機子巻線にそれぞれ電磁的に結合され、上記一組の2次巻線がそれぞれ上記一組の1次巻線に対応して設けられて、対応する1次巻線と電磁束がそれぞれ連通するように配置されている多相励磁変成器、ならびに
上記一組の2次巻線に電気的に結合され、電気エネルギを上記界磁巻線に供給して磁界を発生させる整流手段を有し、
上記励磁変成器が上記の1次巻線、2次巻線およびコアと熱流通関係にある第1の熱交換手段を含み、上記第1の熱交換手段が動作時に上記励磁変成器のコアを冷却するための冷却液を含み、上記整流手段が該整流手段を冷却するための第2の熱交換手段を含み、該第2の熱交換手段が上記第1の熱交換手段と冷却液の流れが通じるように直列に結合されていることを特徴とする静止励磁システム。(別紙図面1参照)
(2) 特許請求の範囲第(11)項に記載された発明(以下「本願第2の発明」という。)
ケーシング、回転磁界を発生するための回転可能な界磁巻線、固定子鉄心スロットの中に一組の多相の主電機子巻線が配置された固定子鉄心、ならびに上記界磁巻線および上記固定子鉄心を冷却するために上記界磁巻線および上記固定子鉄心と熱流通関係に配置された冷却手段を含み、上記界磁巻線、上記固定子鉄心および上記冷却手段が上記ケーシングの中に配置されている回転電気機械に対する静止励磁システムであって、
コア、一組の1次巻線、および一組の2次巻線を有し、上記一組の1次巻線のそれぞれが上記一組の主電機子巻線の内のそれぞれの主電機子巻線に電磁的に結合され、上記一組の2次巻線が上記一組の1次巻線に対応して設けられて、対応する1次巻線と電磁束がそれぞれ連通するように配置されている多相変成器であって、上記1次巻線、上記2次巻線および上記コアと熱流通関係にあって、第1の冷却液を受けるように冷却液源手段と冷却液流通関係に結合された第1の熱交換手段を含んでいる多相変成器、ならびに
電気エネルギを上記界磁巻線に供給して磁界を発生させるため上記一組の2次巻線に電気的に結合された整流手段を含み、
上記変成器が上記ケーシングの外側に近接して配置されていることを特徴とする静止励磁システム。(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) 特公昭57-20785号公報(以下「引用例」という。)には、図面第1~7図とともに、特に、以下の記載が認められる。
(イ) 回転する界磁巻線7、電磁的固定子鉄心1、及び該固定子鉄心上に配置された1組の電機子多相主巻線11を含み、該主巻線の各相巻線が夫々前記固定子鉄心の外に伸びている内部線路導線12及び内部中性導線13を持っており、更に前記主巻線及び鉄心にわたって冷却流体を循環させるよう構成された冷却装置を有する回転機に於て、前記界磁巻線のための励磁電力を発生する静止型励磁電源を有し、該励磁電源が、前記回転機のケーシング3内または該ケーシングに近接した閉じた外被55内で前記固定子鉄心の近くに配置され、且つ前記冷却装置により冷却されるように前記冷却流体と熱交換(「交較」は誤りと認める。)関係に配置されていて、鉄心、前記回転機の電機子電流に応答する第1の1次巻線16及び2次巻線23を持ち、該第1の1次巻線16が前記回転機の前記主巻線11からの前記内部中性導線13で構成されている励磁変圧器15と、前記回転機の電機子電圧に応答して電圧出力を発生する補助電源(200又は100)とで構成され、前記励磁変圧器15が更に前記補助電源に接続されていて、それから前記電圧出力を受け取る第2の1次巻線19を持っており、もって前記励磁変圧器15がその第1の1次巻線16に供給される電機子電流成分及び第2の1次巻線19に供給される電機子電圧成分の両方に応答して、2次巻線23に界磁巻線7の励磁のための複合電力出力を発生することからなる回転機(1欄27行~2欄16行)。
(ロ) 静止型励磁電源が提案されたことがある。この方式は、場合によっては、励磁変圧器に設けた飽和式直流制御巻線によって制御されることがあり、自己調整式電源としてはすぐれているが、大形で高価になり、発電所の配置を複雑にし、別個の冷却装置を必要として、発電機と主電力変圧器との間の孤立した各相母線の途中又はその間に、望ましくない接続をする必要がある傾向がある(3欄5~13行)。
(ハ) 2次側23からの出力導線が、ブッシング24を通って発電機のケーシングから出てゆき、3相入力として整流器バンク9に接続される(6欄23~26行)。
(ニ) 相巻線20a(固定子のスロットの先端に配置されている)から励磁変圧器の1次巻線19a及びリアクトル巻線21aを通って中性接続部22に至る電気的な直列接続が形成される。3相の各々に対して、同様の接続がなされる。この接続部分を液体冷却する手段が、互いに流体の連通性を持つ直列接続の巻線21a、19a及び20aに対する接続ホース44を含んでいる(8欄24~32行)。
(ホ) 発電機の接地変圧器及び保護継電器装置17bを、発電機のケーシングの外側で、中性点にごく近い所に設けることにより、これらの素子に対する接近の容易さ、保護及び保守も、最大に活かされる(10欄15~19行)。
(ヘ) 監視用の計器用変成器18も、手入れの為に接近出来るように、ケーシングの外側に設ける方が便利である(10欄31~33行)。
(3) そこで、本願第1の発明と引用例に記載された発明とを対比すると、引用例に記載された発明が、“励磁変圧器が1次巻線(励磁変圧器構成部品)と熱流通関係にある第1の熱交換手段を含み、上記第1の熱交換手段が動作時に上記励磁変圧器の1次巻線を冷却するための冷却液を含む”の構成を有するものであることは、特に前記(ニ)の記載から明らかであるし、引用例の前記(イ)、(ハ)、(ニ)の記載における「冷却装置」、「励磁変圧器」、「整流器バンク」、「回転機」が、本願第1の発明における「第1の冷却手段」、「多相励磁変成器」、「整流手段」、「回転電気機械に対する静止励磁システム」に、それぞれ対応するものであることも明らかであるから、両者は、
「回転磁界を発生するための回転可能な界磁巻線、固定子鉄心スロットの中に一組の多相の主電機子巻線を配置した固定子鉄心、および少なくとも上記一組の主電機子巻線を冷却するために第1の冷却流体を供給する第1の冷却手段を含む回転電気機械に対する静止励磁システムであって、コア、一組の1次巻線、および一組の2次巻線を有し、上記一組の1次巻線が上記一組の主電機子巻線の内の予め定められた主電機子巻線にそれぞれ電磁的に結合され、上記一組の2次巻線がそれぞれ上記一組の1次巻線に対応して設けられて、対応する1次巻線と電磁束がそれぞれ連通するように配置されている多相励磁変成器、ならびに
上記一組の2次巻線に電気的に結合され、電気エネルギを上記界磁巻線に供給して磁界を発生させる整流手段を有し、
上記励磁変成器が変成器構成部品と熱流通関係にある第1の熱交換手段を含み、上記第1の熱交換手段が動作時に上記励磁変成器構成部品を冷却するための冷却液を含むことを特徴とする静止励磁システム。」
で一致し、次の点で一応相違する。
<1> 冷却対象である「変成器構成部品」を、本願第1の発明が「1次巻線、2次巻線およびコア」としているのに対し、引用例に記載された発明は「1次巻線」としている点
<2> 本願第1の発明(「本願発明」は誤りと認める。)が、「整流手段が該整流手段を冷却するための第2の熱交換手段を含み、該第2の熱交換手段が上記第1の熱交換手段と冷却液の流れが通じるように直列に結合されている」の要件を有している、すなわち、「整流手段」をも冷却対象とし、かつ、その「冷却液」を「変成器構成部品」の「冷却液」と連通兼用させているのに対し、引用例に記載された発明は、そのようにしていない点
(4) 上記相違点について検討する。
<1> 相違点<1>については、本願第1の発明が「2次巻線およびコア」までも冷却対象としたことの格別の意義は認められず、単に冷却対象を増やしたというにすぎないと認められるから、この点は設計上の必要に応じて当業者が容易に想到しえたことと認められる。
<2> 相違点<2>については、整流手段を冷却対象とすること自体は普通のことであり(例えば、実公昭37-29704号公報参照。)、また、冷却液を複数の冷却対象部品間で連通兼用させることも普通のことであって(例えば、引用例における前記(ニ)の記載からもうかがえる。)、いずれも格別のこととは認められず、この点も設計上の必要に応じ当業者が容易に想到しえたことと認められる。
(5) 本願第2の発明と引用例に記載された発明とを対比すると、引用例に記載された発明が、“1次巻線(励磁変圧器構成部品)と熱流通関係にあって、第1の冷却液を受けるように冷却液源手段と冷却液流通関係に結合された第1の熱交換手段を含んでいる励磁変圧器”を有するものであることは、特に引用例における前記(ニ)の記載から明らかであるし、また、“励磁変圧器がケーシングの外側に近接して配置されている”の構成を有するものであることも、引用例における前記(イ)の記載中の「該励磁電源が、前記回転機のケーシング3内または該ケーシングに近接した閉じた外被55内で前記固定子鉄心1の近くに配置され」の記載、および図面第6図(別紙図面2参照)の態様から明らかであるし、引用例の前記(イ)、(ハ)、(ニ)の記載における「冷却装置」、「励磁変圧器」、「整流器バンク」、「回転機」が、本願第2の発明における「冷却手段」、「多相変成器」、「整流手段」、「回転電気機械に対する静止励磁システム」に、それぞれ対応するものであることも明らかであるから、両者は、
「ケーシング、回転磁界を発生するための回転可能な界磁巻線、固定子鉄心スロットの中に一組の多相の主電機子巻線が配置された固定子鉄心、ならびに上記界磁巻線および上記固定子鉄心を冷却するために上記界磁巻線および上記固定子鉄心と熱流通関係に配置された冷却手段を含み、上記界磁巻線、上記固定子鉄心および上記冷却手段が上記ケーシングの中に配置されている回転電気機械に対する静止励磁システムであって、
コア、一組の1次巻線、および一組の2次巻線を有し、上記一組の1次巻線のそれぞれが上記一組の主電機子巻線の内のそれぞれの主電機子巻線に電磁的に結合され、上記一組の2次巻線が上記一組の1次巻線に対応して設けられて、対応する1次巻線と電磁束がそれぞれ連通するように配置されている多相変成器であって、変成器構成部品と熱流通関係にあって、第1の冷却液を受けるように冷却液源手段と冷却液流通関係に結合された第1の熱交換手段を含んでいる多相変成器、ならびに
電気エネルギを上記界磁巻線に供給して磁界を発生させるため上記一組の2次巻線に電気的に結合された整流手段を含み、
上記変成器が上記ケーシングの外側に近接して配置されていることを特徴とする静止励磁システム。」
で一致し、冷却対象である「変成器構成部品」を、本願第2の発明が「上記1次巻線、上記2次巻線および上記コア」としているのに対し、引用例に記載された発明は“1次巻線”としている点で相違する。
(6) よって、上記相違点を検討すると、本願第2の発明が「上記2次巻線および上記コア」までも冷却対象としたことの格別の意義は認められず、単に冷却対象を増やしたというにすぎないと認められるから、この相違点は設計上の必要に応じて当業者が容易に想到しえたことと認められる。なお、本願第2の発明における「変成器が上記ケーシングの外側に近接して配置されている」の要件が、“変成器がケーシング内の空間と隔離した状態でケーシングの外側に近接して配置されている”の旨であるとしても、一般的に、修理交換を容易に行うため等でそのような構成を採ることは普通のことであって(例えば、引用例における前記(ロ)、(ホ)、(ヘ)の記載からもうかがえる。)、そのような構成も、設計上の必要に応じて当業者が容易に想到しうるものである。
(7) 以上のとおりであるから、本願第1の発明、第2の発明は、いずれも、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。
同(3)は認める(ただし、相違点は他にもある。)。同(4)<1>は争う。同(4)<2>のうち、整流手段を冷却対象とすること自体は普通のことであり(例えば、実公昭37-29704号公報参照。)、また、冷却液を複数の冷却対象部品間で連通兼用させることも普通のことである(例えば、引用例における前記(ニ)の記載からもうかがえる。)ことは認め、その余は争う。
同(5)のうち、“励磁変圧器がケーシングの外側に近接して配置されている”の構成を有するものであることも、引用例における前記(イ)の記載中の「該励磁電源が、前記回転機のケーシング3内または該ケーシングに近接した閉じた外被55内で前記固定子鉄心1の近くに配置され」の記載、および図面第6図の態様から明らかであること、並びに、両者が上記変成器が上記ケーシングの外側に近接して配置されていることで一致していることは争い、その余は認める(ただし、相違点は他にもある。)。同(6)は争う。同(7)は争う。
審決は、本願第1の発明と引用例に記載された発明との相違点を看過し、かつ、相違点に対する判断を誤った結果、本願第1の発明についての進歩性の判断を誤ったものであり、同様に、本願第2の発明と引用例に記載された発明との相違点を看過し、一致点の認定を誤り、かつ、相違点に対する判断を誤った結果、本願第2の発明についての進歩性の判断を誤ったものであり、違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(本願第1の発明と引用例に記載された発明との相違点の看過)
本願第1の発明においては、励磁変成器及び整流手段をそれぞれ冷却するための第1及び第2の熱交換手段を直列に流れる冷却液の流れが、主電機子巻線を冷却するために第1の冷却流体の流れを供給する第1の冷却手段とは別に設けられ、隔離されている。
したがって、審決には、本願第1の発明の技術内容の認定を誤った結果、引用例に記載された発明との相違点を看過した違法がある。
(2) 取消事由2(本願第1の発明と引用例に記載された発明との相違点に対する判断の誤り)
<1> 相違点<1>について
本願第1の発明は、励磁変成器18のコア35、1次巻線29、2次巻線30を冷却液で冷却することにより励磁変成器を小形としたのに対し、引用例に記載された発明は、発電機のガス及び液体による冷却装置を使って励磁変圧器15の小形化を図ったものであって、課題解決の方法を異にする。
しかも、引用例に記載された発明は、発電機の冷却装置によって励磁変圧器を冷却するため、励磁変圧器の交換修理に際して発電機を停止しなければならない。本願第1の発明は、引用例に記載された発明が有するかかる課題を解決したものである。また、引用例に記載された発明では、発電機のガス冷却装置も使うために、励磁変圧器を気密ケーシング3中に配置しなければならず、そのためにドーム部分3aを設け、又は、密閉外被55を設けなければならない(甲第3号証7欄5行ないし13行、11欄7行ないし15行)。上記のようにドーム3a又は密閉外被55を設けることは、振動、経費、重量増加及び構造複雑化という問題を有するものである。
<2> 相違点<2>について
(a) 審決は、整流手段を冷却対象とすること自体は普通のことであるとして実公昭37-29704号公報(甲第4号証)を引用しているが、誤りである。
甲第4号証においては、整流手段である回転整流器装置22は中空軸3と共に回転するもので(同号証2頁左側21行ないし24行)、冷却液体は、整流器24、回転子、及び固定子を循環して冷却するものである(同2頁右欄27行ないし40行)。しかも、甲第4号証においては、交流励磁機17は界磁巻線19と交流電機子巻線21を有する鉄心20とから構成されているのみであり、励磁変成器が存在しない。
一方、引用例に記載の整流手段(甲第3号証第1図符号9で表される整流器バンク)は、回転機の外にあって静止していて、しかも、冷却することは示されていない。したがって、甲第4号証に記載のものと、引用例に記載のものとを合せ考えても、静止している励磁変成器と整流手段とを同一冷却液で冷却する構成を示唆する記載がない。整流手段が冷却対象であることが甲第4号証に単に記載されているからといって、甲第4号証に示すような回転する整流手段を有しない引用例に記載に記載された発明と合せ考えることが適切であるとは認められないものである。
(b) また、審決は、冷却液を複数の冷却対象部品間で連通兼用させることも普通のことであるとして、引用例の記載(ニ)を引用しているが、誤りである。
引用例に記載された発明における励磁変圧器の1次巻線19aは、固定子のスロットに配置された相巻線20aと液体が連通しているために、前述したように励磁変圧器の修理交換に際し、固定子を有する発電機を停止しなければならない問題がある。したがって、このような問題を考慮せずに、冷却対象部品間で冷却液を連通兼用させることはできないのである。
(3) 取消事由3(本願第2の発明と引用例に記載された発明との相違点の看過、一致点の認定の誤り)
<1> 2つの冷却流体の隔離について
本願第2の発明は、ケーシング15の外側に配置した多相変成器のコア35、1次巻線29、2次巻線30を冷却液源手段40からの冷却液によって冷却し、一方、回転電気機械の界磁巻線13、固定子11の鉄心、及び冷却手段をケーシング15の中に配置し、界磁巻線及び固定子鉄心はケーシング中の冷却手段によって冷却する。多相変成器を冷却する冷却液の流れは、回転電気機械の冷却手段とは別に設けられ、隔離されている。
したがって、審決には、この点で、本願第2の発明の技術内容の認定を誤った結果、引用例に記載された発明との相違点を看過した違法がある。
<2> 変成器の外側近接配置について
本願第2の発明のケーシング15は、その中に冷却手段が配置され、水素ガスのような冷却流体28が循環しているものである。水素ガスを内部に含むためケーシング15は加圧可能、すなわち気密になっている。多相変圧器(励磁変成器)18は、かかる加圧可能なケーシング15の外側に配置されるものである。
これに対し、引用例に記載された発明では、ケーシング3に対して別個に設けた外被55は密封外被であり、連通導管56及びファンで図示されている循環手段57を介して、ケーシング3内のガス冷却流体が循環されている(甲第3号証11欄7行ないし15行及び図面第6図)。そして、励磁変圧器15は、加圧可能な、すなわち、密封された外被55内にあって、発電機のガス冷却流体によって冷却されている。すなわち、本願第2の発明の「多相変成器がケーシングの外側に近接して配置されている」との構成は、引用例には示されていない。
したがって、審決には、この点で、引用例に記載された発明の技術内容の認定を誤った結果、本願第2の発明との一致点の認定を誤った違法がある。
(4) 取消事由4(本願第2の発明と引用例に記載された発明との相違点に対する判断の誤り)
<1> 審決は、本願第2の発明が「上記2次巻線および上記コア」までも冷却対象としたことの格別の意義は認められず、単に冷却対象を増やしたというにすぎないと認められるから、この相違点は設計上の必要に応じて当業者が容易に想到し得たことと認められると判断するが、誤りである。
本願第2の発明は、励磁変成器18のコア35、1次巻線29、2次巻線30を冷却液で冷却することにより励磁変成器を小形としたのに対し、引用例に記載された発明は、発電機のガス及び液体による冷却装置を使って励磁変圧器15の小形化を図ったものであって、課題解決の方法を異にする。
しかも、引用例に記載された発明は、発電機の冷却装置によって励磁変圧器を冷却するため、励磁変圧器の修理交換に際して発電機を停止しなければならない。したがって、このような問題を考慮せずに、単に冷却対象を増やすことはできないのである。本願第2の発明は、引用例に記載された発明が有するかかる課題を解決したものである。
<2> また、審決は、本願第2の発明における「変成器が上記ケーシングの外側に近接して配置されている」との要件が、“変成器がケーシング内の空間と隔離した状態でケーシングの外側に近接して配置されている”旨であるとしても、一般的に、修理交換を容易に行うため等でそのような構成を採ることは普通のことであって(例えば、引用例における前記(ロ)、(ホ)、(ヘ)の記載からもうかがえる。)、そのような構成も、設計上の必要に応じて当業者が容易に想到し得るものであると判断するが、誤りである。
引用された(ロ)の記載のものは、大形で高価になり、発電所の配置を複雑にし、別個の冷却装置を必要とする等の問題点を有するもので、引用例が採用を否定している構成であり、そのような引用例が否定している構成から本願第2の発明の構成が容易になし得たものとは認められない。また、引用(ロ)の記載には、励磁変圧器の配置方法については一切記載がない。
引用された(ホ)及び(ヘ)に記載の接地変圧器及び計器用変成器は、いずれも消費電力が少ないために冷却を要しないものである。引用例において冷却を要する励磁変圧器はケーシング内に配置するものの、これら冷却を要しない接地変圧器、計器用変成器をケーシングの外側に配置しているのであって、これらは同一に扱われていないし、扱うものではない。したがって、引用された(ホ)及び(ヘ)の記載から、励磁変成器をケーシングの外側に配置する構成は当業者が容易に想到し得るものではない。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
冷却手段の構成として、本願明細書の特許請求の範囲第(1)項には、「少なくとも上記一組の主電機子巻線を冷却するために第一の冷却流体を供給する第一の冷却手段を含む」(甲第2号証の2第1頁4行ないし6行)と記載されており、第1の冷却手段の冷却流体の流れは主電機子巻線に加えて励磁変成器にも供給され、これを冷却することを排除するものではない。
また、冷却液に関して、本願明細書の特許請求の範囲第(1)項には、「上記励磁変成器が上記1次巻線、2次巻線およびコアと熱流通関係にある第1の熱交換手段を含み、上記第1の熱交換手段が動作時に上記励磁変成器のコアを冷却するための冷却液を含み、」(甲第2号証の2第18行ないし2頁1行)と記載されているのみであって、冷却液の流れが第1の冷却手段とは別に設けられているとの記載はない。
したがって、原告主張の相違点の看過はない。
(2) 取消事由2について
<1> 相違点<1>について
前記(1)で述べたとおり、本願第1の発明は、励磁変成器を冷却対象に加えて第1の冷却流体でも冷却することを排除するものではない。したがって、本願第1の発明は、原告が主張する効果を必ずしも奏するものではない。
<2> 相違点<2>について
(a) 整流手段を冷却対象とすることについて、審決は、相違点<2>に対する判断において、整流手段を冷却対象とすることが普通のことであることの例として、実公昭37-29704号公報を引用したにすぎないのであり、上記公報記載の具体的構成まで含めて普通のことであると述べたのではないから、上記公報に記載された具体的な構成を挙げ、当業者が容易に想到し得たものではないとする原告の主張は失当である。
(b) また、冷却液を複数の冷却対象部品間で連通兼用させることについても、本願第1の発明は、前記(1)で述べたとおり、励磁変成器の冷却を、冷却液に加えて上記第1の冷却流体によっても行うことを排除しているものではなく、励磁変成器の修理交換を固定子を有する発電機を停止させなくても行うことができるとの効果を必ずしも奏するものではない。
(3) 取消事由3について
<1> 2つの冷却流体の隔離について
多相変成器を冷却する冷却液の流れが回転電気機械の冷却手段とは別に設けられている構成は、本願明細書の特許請求の範囲(11)項に記載されていない。
<2> 変成器の外側近接配置について
引用例に、図面第6図(別紙図面2参照)の説明として、「発電機のケーシング3に対して物理的に近接しているが、それとは別個の密封外被55内に、励磁変圧器15及びリアクトル21を封入することにより、発電機のケーシングが変更されている。」(甲第3号証11欄8行ないし12行)と記載されているように、引用例にも、連通導管56及び循環手段57を介してケーシングと連通しているものの、本願第2の発明の多相変成器がケーシングの外側に近接して配置されているとの構成が示されていることは明らかであり、審決がこの点に関し認定を誤ったとする原告の主張は失当である。
(4) 取消事由4について
<1> 前記(3)<1>で述べたとおり、冷却流体の流れと冷却液の流れが隔離されている構成は本願明細書の特許請求の範囲第(11)項に記載されておらず、本願第2の発明は、励磁変圧器の修理交換に際し発電機を停止する必要がないとの効果を必ずしも奏するものではない。
また、課題解決の方法を異にする点についても、引用例に記載された発明も、液体による冷却を行っているものであり、小形化を図るという効果において両者に何ら差異はない。
<2> 引用例の(ロ)の記載には、励磁電源に別個の冷却装置を必要とする旨が示されており、また、引用例の(ホ)、(ヘ)の記載には、冷却の対象とはなっていないが、修理交換を容易に行うため等で接地変圧器等をケーシングの外側に配置することが示されている。上記のように、任意の機器を冷却の対象であるかどうかにかかわらず、ケーシング内の空間と隔離した状態でケーシングの外側に近接して配置する構成を採ることは普通のことであり、「そのような構成も、設計上の必要に応じて当業者が容易に想到しうる」とした審決の判断に誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)は、当事者間に争いがない。
2 本願第1の発明について
(1) 審決の理由の要点(3)(本願第1の発明と引用例に記載された発明との一致点の認定、相違点の認定)は、当事者間に争いがない(ただし、原告は他にも相違点があると主張する。)。
(2) 取消事由1について
原告は、本願第1の発明においては、励磁変成器及び整流手段をそれぞれ冷却するための第1及び第2の熱交換手段を直列に流れる冷却液の流れが、主電機子巻線を冷却するために第1の冷却流体の流れを供給する第1の冷却手段とは別に設けられ、隔離されていると主張する。
しかしながら、本願第1の発明が、励磁変成器及び整流手段をそれぞれ冷却するための第1及び第2の熱交換手段を直列に流れる冷却液の流れが、主電機子巻線を冷却するために第1の冷却流体の流れを供給する第1の冷却手段とは別に設けられ、隔離されていることをその発明の要旨としていると解することはできない。
すなわち、本願明細書の特許請求の範囲第(1)項の記載には、隔離されたとの明示の記載はない。確かに、「第1の冷却流体を供給する第1の冷却手段」(甲第2号証の2第1頁6行)との記載は、本願第1の発明が、第2の冷却流体を供給する第2の冷却手段を想定している可能性があることを示している。しかし、上記「第1の冷却流体を供給する第1の冷却手段」との記載は、第2の冷却流体が第1と第2の熱交換手段を直列に流れる「冷却液」であり、第2の冷却手段が第1と第2の熱交換手段を併せたものであることをうかがわせるとしても、それ以上に、それが第1の冷却手段と隔離されていることまでをうかがわせるものとはいえない。そして、それらが隔離されていると解さないと本願第1の発明の特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解できない場合にも当たらない。
なお、本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のもう1つの目的は励磁システムの構成部品内の冷却流体の流れを大形回転電機機械の冷却システムから隔離した静止励磁システムを提供することである。」(甲第2号証の1第5頁左上欄7行ないし10行)、「巻線14a、14bおよび14cの導体中の冷却流体の流れは、たとえばヘッダ53とブッシング24との間の導体の部分を中実な(すなわち中空でない)銅で製造すること等により阻止される。したがって、巻線14a、14bおよび14cの導体からの冷却流体は励磁変成器18の1次巻線の導体に対する冷却流体から隔離される。」(同7頁左上欄13行ないし19行)と記載され、本願明細書添付の第1図(別紙図面1参照)では、冷却液源40から励磁変成器18と整流ブリッジ20に流れる冷却液の流れと、冷却流体源50から主電機子巻線14を流れる冷却流体の流れとの二つに隔離された実施例が記載されている。しかし、前記記載に続けて、「冷却液源40と冷却流体源50は1つのユニットで構成してもよい。」(同7頁右上欄6行ないし8行)とも記載されているのみならず、この隔離の構成の意義につき、「発電機冷却システムから隔離された、励磁変成器の巻線およびコアの冷却システムを使用すれば、」(同4頁左上欄7行ないし9行)と仮定形式で記載した上、修理交換容易、ダウン時間短縮などの作用効果を記載しており、本願第1の発明がかかる隔離の構成を採用した旨の明示の記載はないから、これらの記載に対応する要件は、本願第1の発明の特許請求の範囲には記載されていないものと認められる。
したがって、審決には、本願第1の発明の技術内容の認定を誤った結果、引用例に記載された発明との相違点を看過した違法はなく、原告主張の取消事由1は理由がない。
(3) 取消事由2について
<1> 相違点<1>に対する判断の誤り
相違点<1>の内容は、冷却対象である変成器構成部品を、本願第1の発明が「1次巻線、2次巻線およびコア」としているのに対し、引用例に記載された発明は「1次巻線」としているというものである。一般に、電流、特に大電流が流れるところには熱が発生し、これを冷却すればこの種電力機器を小型化できることは自明のことである。そうすると、審決が、本願第1の発明が「2次巻線およびコア」までも冷却対象としたことの格別の意義は認められず、単に冷却対象を増やしたというにすぎないと認められるから、この点は設計上の必要に応じて当業者が容易に想到し得たことと認められると判断したことは相当であり、原告主張の違法はない。
原告は、課題解決方法の相違等を主張するが、引用例に記載された発明も、液体による冷却を行っているものであり、この点で本願第1の発明と構成の相違はないし、その他の点は、結局、励磁変成器及び整流手段をそれぞれ冷却するための第1及び第2の熱交換手段を直列に流れる冷却液の流れが、主電機子巻線を冷却するために第1の冷却流体の流れを供給する第1の冷却手段と隔離されていることによる効果を主張するものであり、いずれも、相違点<1>に対する判断に関係しないか、又は本願第1の発明の発明の要旨に基づかない主張であるといわざるを得ないから、採用できない。
<2> 相違点<2>に対する判断の誤り
まず、整流手段をも冷却対象とすること自体は、冷却液の連通の有無等の方法の点はともかく、普通のことであり(以上の点は当事者間争いがない。)、本願第1の発明において整流手段をも冷却対象とした点は、設計上の必要に応じて当業者が容易に想到し得たことと認められる。
次に、冷却液を複数の冷却対象部品間で連通兼用させることも普通のことであり(以上の点は当事者間に争いがない。)、本願第1の発明において励磁変成器の第1の熱交換手段と整流手段の第2の熱交換手段とを同一の冷却液で連通兼用させたことも、設計上の必要に応じ当業者が容易に想到し得たことと認められる。
原告は、冷却対象部品間で冷却液を連通兼用させることにより、励磁変圧器の修理交換に際し発電機を停止しなければならないことになる例を挙げる。しかし、ここでの問題である、本願第1の発明において励磁変成器の第1の熱交換手段と整流手段の第2の熱交換手段とを同一の冷却液で連通兼用させた点については、原告が主張する修理交換の際の発電機の停止等の付随的問題は生じないものであるから、原告主張にかかる修理交換の際の発電機の停止等の事情は、本願第1の発明において励磁変成器の第1の熱交換手段と整流手段の第2の熱交換手段とを同一の冷却液で連通兼用させたことが設計上の必要に応じ当業者が容易に想到し得たことであるとの上記判断を左右するものではない。また、原告が主張するその余の点は、励磁変成器及び整流手段をそれぞれ冷却するための第1及び第2の熱交換手段を直列に流れる冷却液の流れが、主電機子巻線を冷却するために第1の冷却流体の流れを供給する第1の冷却手段とは隔離されていることを前提とする主張であり、相違点<2>に対する判断に関係しないか、又は本願第1の発明の発明の要旨に基づかない主張であるといわざるを得ないから、採用できない。
<3> したがって、審決には、本願第1の発明と引用例に記載された発明との相違点に対する判断の誤った違法はなく、原告主張の取消事由2は理由がない。
3 本願第2の発明について
(1) 審決の理由の要点(5)のうち、励磁変圧器がケーシングの外側に近接して配置されている”の構成を有するものであることも、引用例における前記(イ)の記載中の「該励磁電源が、前記回転機のケーシング3内または該ケーシングに近接した閉じた外被55内で前記固定子鉄心1の近くに配置され」の記載、および図面第6図の態様から明らかであること、並びに、両者が上記変成器が上記ケーシングの外側に近接して配置されていることで一致していることを除く事実は、当事者間に争いがない(ただし、原告は相違点は他にもあると主張する。)。
(2) 取消事由3について
<1> 2つの冷却流体の隔離について
原告は、本願第2の発明は、ケーシング15の外側に配置した多相変成器のコア35、1次巻線29、2次巻線30を冷却液源手段40からの冷却液によって冷却し、一方、回転電気機械の界磁巻線13、固定子11の鉄心、及び冷却手段をケーシング15の中に配置し、界磁巻線及び固定子鉄心はケーシング中の冷却手段によって冷却し、多相変成器を冷却する冷却液の流れは、回転電気機械の冷却手段とは別に設けられ、隔離されていると主張する。
しかしながら、本願第2の発明が、多相変成器を冷却する冷却液の流れが、回転電気機械の冷却手段とは別に設けられ、隔離されていることをその発明の要旨としていると解することはできない。
すなわち、本願明細書の特許請求の範囲第(11)項の記載には、隔離されたとの明示の記載はなく、「第1の冷却液を受けるように」(甲第2号証の2第5頁12行)との記載も、第2の冷却液が存在することをうかがわせるとしても、それ以上に、その流れが第1の冷却液の流れと隔離されていることまでうかがわせるものではなく、それらが隔離されていると解さないと本願第2の発明の特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解できない場合にも当たらない。
したがって、審決には、この点で、本願第2の発明の技術内容の認定を誤った結果、引用例に記載された発明との相違点を看過した違法はない。
<2> 変成器の外側近接配置について
原告は、本願第2の発明と引用例に記載された発明が上記変成器が上記ケーシングの外側に近接して配置されていることで一致していると認定したが、誤りであると主張する。
しかしながら、前記1に説示の審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)中の「該励磁電源が、前記回転機のケーシング3内または該ケーシングに近接した閉じた外被55内で前記固定子鉄心1の近くに配置され」(同(イ))との記載及び図面第6図(別紙図面2参照)の記載によれば、変成器が回転機のケーシングの外側に近接して配置されている点は、引用例にも記載されていると認められる。
<3> したがって、審決には、本願第2の発明と引用例に記載された発明との間の一致点の認定を誤った違法はない。
よって、原告主張の取消事由3は理由がない。
(3) 取消事由4について
<1> 相違点<1>の内容は、冷却対象である変成器構成部品を、本願第2の発明が「1次巻線、2次巻線およびコア」としているのに対し、引用例に記載された発明は「1次巻線」としているというものである。一般に、電流、特に大電流が流れるところには熱が発生し、これを冷却すればこの種電力機器を小型化できることは自明のことである。そうすると、審決が、本願第2の発明が「2次巻線およびコア」までも冷却対象としたことの格別の意義は認められず、単に冷却対象を増やしたというにすぎないと認められるから、この点は設計上の必要に応じて当業者が容易に想到し得たことと認められると判断したことは相当であり、原告主張の違法はない。
原告は、課題解決方法の相違等を主張するが、引用例に記載された発明も、液体による冷却を行っているものであり、この点で本願第2の発明と構成の相違はないし、その他の点は、結局、本願第2の発明において、多相変成器を冷却する冷却液の流れと回転電気機械の冷却手段とが隔離されていることによる効果を主張するものであり、相違点<1>に対する判断に関係しないか、又は本願第2の発明の発明の要旨に基づかない主張であるといわざるを得ないから、採用できない。
<2> 変成器が「ケーシング内の空間と隔離した状態で」との点が本願第2の発明の発明の要旨でないことは、前記(2)<1>に説示のとおりである。
仮に、「ケーシング内の空間と隔離した状態で」の点が本願第2の発明の発明の要旨に含まれるとしても、変成器がケーシング内の空間と隔離した状態でケーシングの外側に近接して配置することは、修理交換を容易にするために普通に採用される構成であると認められる。さらに、前記1に説示の審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)の「静止型励磁電源が提案されたことがある。この方式は、場合によっては、励磁変圧器に設けた飽和式直流制御巻線によって制御されることがあり、自己調整式電源としてはすぐれているが、大形で高価になり、発電所の配置を複雑にし、別個の冷却装置を必要として」(同(ロ))、「発電機の接地変圧器及び保護継電器装置17bを、発電機のケーシングの外側で、中性点にごく近い所に設けることにより、これらの素子に対する接近の容易さ、保護及び保守も、最大に活かされる」(同(ホ))及び「監視用の計器用変成器18も、手入れの為に接近出来るように、ケーシングの外側に設ける方が便利である。」(同(ヘ))との記載にも、それらの点が記載されていると認められる。引用例(ホ)、(ヘ)中の機器が冷却を要しないものであることも、上記判断の妨げとなるものではないと認められる。また、(ロ)に記載された技術が否定されてものであるとの点も、(ロ)に記載された技術は、従来は使用されていたものであり、容易推考の根拠となるものである。
<3> したがって、審決には、本願第2の発明と引用例に記載された発明との相違点に対する判断を誤った違法はなく、原告主張の取消事由4は理由がない。
4 よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙図面 1
<省略>
別紙図面 2
<省略>